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作品について
「発端は偶発的かつ些細な事象であっても、時間の経過とともに膠着し、いつしか動かし難い既成事実として、社会全体や人の心に定着してゆく」
このような現象への興味が、近年の作品の出発点でした。
架空のモニュメントや空想上の宗教建築のシンボルを地形図に配置したシリーズは『信念の恣意性』をテーマとしています。これらの作品において、私はモニュメントを「集合的記憶を保管する容器」あるいは「神話や共同体意識の形成・維持を目的とした装置」として捉えています。建立者側のプロパガンダの道具ともなりえるモニュメントというメディアは、効果的であればあるほど、ときにパラダイムシフトの心理的障害となり、長年にわたって社会的影響力を持ち続けます。
画面上にモニュメントを記号として描くとき、私は背景となる地形や他の記号との位置関係、さらには偶然の要素も考慮して位置(設置場所)を決定してゆきます。間接的に生成される架空の歴史や『場所性』を想定しつつ絵画としての構図決定を進めることで、モニュメント(=ある価値体系の象徴)の不可逆的占有を再演しているのです。つまり、ひとたび描かれた記号の位置の妥当性を、配置以前に立ち返り、公正に評価することの難しさは、歴史解釈の困難のミニチュアであり、その意味で、作品の制作作業そのものが『架空の精神史のシミュレーション』なのです。
地図という観念を同じ二次元媒体である絵画に重ねることで現れる何か、中でも、従来のシミュレーショニズムでは語りきれない部分に私は惹かれます。それは、すべてを俯瞰したいという欲望や、デジタル時代の反動としての絵画技術の復権などでは説明のつかない、マッピング本能と絵画の構図に関係する深淵な何かです。
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